仙台広瀬川ワイルド系ワーキングマザー社長

ビールと温泉と面白いものが好きな大学生男子の母。

これが中年男子の愛だ泣け。— 長嶋有「愛のようだ」

年末年始に、tobubeatsの曲を聞きながら浸った本。

読んでいる間も楽しいし、読後感もぽっとあったかくなる、良い本だ。

愛のようだ

愛のようだ

 

帯でいきなりネタバレされている。(この帯はちょっと違うのではないかと正直思う)

私は、人が死んだり病気になったりして泣かされる系べたべた恋愛小説は嫌い。でも長嶋有なら心配要らないと妙な確信を持って買った。長嶋有の本は随分図書館で借りて読んだけど買ったのは初めて。

たしかにそのとおりだった。けど、ちくしょう、これは、やられたなぁと思った。

私は薄情なので滅多に泣いたりしないけど、これは「泣ける」本だ。悲しくなくて、むしろ清々しいのに。

 

冒頭、主人公の戸倉が40代で遅い免許を取るほかは、ほぼ全編が車でドライブ中。ひたすら何かの目的のために移動する。ロードムービーかも。みんなでドライブって私はほとんどしたことないけど、こんな感じなのかなと思う。BGMを歌ったり、SAでコーヒー飲んだり、休憩したり。ひたすら楽しく、ところどころ中年のポイントを突いてきてニヤニヤする。アラフォー男子なら知ってるアニメや漫画のネタが次々出てくる。北斗の拳キン肉マン

 

 40代にもなればみんなそれなりの地位だったり、仕事でも成果上げてたりする。表向き器用に生きているようで、出てくる男たちはみなちょっと道を外している。バツイチだったり、フリーランスだったり、いつのまにか子どもができていたり、そして重い病の人を想っていたり。

淡々といろんな「愛のよう」なことが挟まれる。決して熱烈ではない。もう中年だから、没頭するほど、めそめそできるほど恋はできない。それでも、渇望してもいないのに、愛のようなものはうっかり入って来る。そして日々の根底を静かに流れ続ける。そうなのかな、これは、というかすかな戸惑いとともに。

男子たち(時には女子も交えて)はわいわい楽しそうに旅をする。ひととき共にした楽しいことをやってるだけの時間が、すごく大事でその後の自分を支えたりするんだよね。

 

戸倉は想い人に伝えられないままだ。自分の微妙な不器用さを自覚し、それでも最後は清々しい。告げてしまった愛はいつか壊れてしまうけど、告げられなかった愛はいつまでも、残る。そういうの、大事にしたっていいんじゃないだろうか。 

 

ひとしずくこぼした分の、あたたかい愛を抱えて生きるのも悪くない。

そういう人は、不器用でも、なんか素敵だと、私は思う。