仙台広瀬川ワイルド系ワーキングマザー社長

ビールと温泉と面白いものが好きな大学生男子の母。

「知がめぐり、人がつながる場のデザイン―働く大人が学び続ける”ラーニングバー”というしくみ」

先日、TRUNKで行われたセミナー(私の別人格によるレポートはこちら)に出席してきて、その中で紹介されていた本。仙台市図書館にないので、買いました。
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これは、大変面白い本でしたよ。
コミュニティ運営、勉強会主催者、コワーキングスペース運営者、とにかく異業種の多様な人が集まる場所・組織を「なんとかうまく運営したいなぁ」と思っている人には、すごく参考になると思う。

著者は東京大学の准教授。大学で大人が学ぶバー、「ラーニングバー」を主催している(執筆時)。
まず最初に「ラーニングバー」が何なのか体感できるように、ある回のラーニングバー―サイーバーエージェントの人事の方が講師を務めた回―の、準備から終わりまでを時系列でなぞって、どんなことが起きたかを綴っている。


これをひと通り読んだら、もう。
東京に行って「ラーニングバー出たい!」と思いました。
学びをたのしむための仕組みが、徹底してデザインされているんです。


私がいいなと思ったのを列挙します。

まず飲む、食べる

仕事の後の時間に開催される講演会やセミナーは、参加者は既に疲れ果てて空腹のはず。寝ちゃったり、空腹で話をきくどころじゃなくなったり。終了後に懇親会、てのがお決まりのパターンだ。
でもラーニングバーでは、受付して最初に、カウンターにドリンクとフードがセッティングされているんですよ。しかも、どうでもいい乾き物やお惣菜なんかじゃない。その日のテーマに沿った料理とドリンク(お酒も)を、フードコーディネイターの方に考えてもらってる。お酒とおいしい食べ物でリラックスすると、安心するし、対話もはずみやすい。講演中は席に持ってきて食べながら、合間もカウンターに出かけていって話しながら、飲食。いいなぁ。
おなかにものが入ると寝たくなるんじゃないか、と、反論されそうですが、眠くならないような仕組みも考えている。

参加者どうし、講師との対話を重視

偉い人が来て壇上で喋って、拍手、質疑応答……そんな一方的な内容では、参加者は寝る。ラーニングバーでは、講演は30分で区切る。なぜなら仕事で疲れた人が集中力を保って聞くのは30分が限度だし、対話を重視しているから。30分で区切って、参加者の対話する時間を入れます。グループセッションであったり、冒頭の例だと「ゆるゆるネットワーキング」であったり。
質疑応答のかわりになるものも、工夫されている。例えば、講演のあと参加者から付箋に書いてもらったのを、終了間際にスタッフがまとめて、グループわけして、それを演壇に貼ったものを見ながら、中原先生がうまく質問を作って講演者に答えてもらう。通常の公演後の質疑応答では、採用されるのはほんの数人。でもこの方法なら、全員の質問をまず講師に見てもらえるし、そのたくさんの質問の傾向をまとめた形で中原先生が、ストーリーを作った問いかけにして講師に伝えてくれる。参加者も講演者も、満足度が高いんじゃないでしょうか。

対話しやすさの工夫

初めて会った見ず知らずの人と対話が弾むなんて、いくら飲食でリラックスしていようと、難しい。名刺交換で終わってしまう。「何を喋ったらいいかわからない」「会話が続かない」そういう経験みんな多いんじゃないかな。ラーニングバーでは、そこを工夫している。「ゆるゆるネットワーキング」だと、講演の前半で出てきたことについて「あなた自身の問題をカードに書いてください」とスタッフが促します。カードに記入し、それを身につけて、名刺交換したり食べ物を取りに行ったりする。すると、対話のテーマがお互いそのカードに絞られる。このことについて話ましょう、という意思表示になる。「あ、この人はこの話を聞いてこう思ったんだ」というのがすぐにわかり、話のきっかけになりやすい。これ、面白いなーと思いました。
ラーニングバーで出会って、そのまま終了後飲みに行って、以降も定期的に集まったり、会ったり、さらに新しい仕事につながったりするケースもあるのだとか。なんだかコワーキングみたいだ。

場所の雰囲気を良くしておもてなし

インテリア、飾りなど、BGMで開場の雰囲気を良くして、さらにその日のテーマや季節を感じさせるものにする。普通、場所と椅子だけ用意して雰囲気なんて気にしないですよね。とかく頭でっかちな人は中身さえしっかりしてれば環境なんて多少味気なくても平気と思い込みがち。でもラーニングバーでは学びに来た人をおもてなしすることに重点を置いている。学ぶことって楽しい、と思うためには場所の雰囲気ってとても重要。そして一方で、それだけに凝ってしまいがちにならないように、という注意も。楽しいからのめりこんじゃいそうだよね。私なんか特に。

スタッフがロールモデル

スタッフは普通、受付に収まって裏方で走り回って…というスタッフ業に注力するけど、著者は開場とともにビール片手に開場を回遊し、参加者に声をかけ積極的に対話する。講師も、講師控え室にいないで開場をうろうろしている。自分自身がその場での振舞い方のお手本となるように、ロールモデルとなるようにするわけです。まずスタッフが楽しんでいる姿を見せるのは重要でしょうね。

大学というニュートラルな場所で開催される

大学は企業の利害も社会的価値(それが何の役に立つの的な)も関係なく、純粋に学びたい思いだけで知的好奇心の触手を伸ばせる、ニュートラルな場所。だと思う。(本来は。)ここで開催されるイベントは、ライバル会社も企業の規模も役職も年収も関係なく、学びたい人はみんな平等ですよと言っているのと同じ。「Serious fan(知的で楽しい)」なことは大学に溢れてる。
日本の最高学府である東京大学で、こういう「学びたい人はあつまれ、みんな平等」というイベントが開催されるのは、すごく素敵だなと思う。

モヤモヤ感を残す

講演のテーマについて、合間の対話の時間でも、そして終わってからも、参加者が考えつづけてほしいという思いを込めて、ラーニングバーは「問いかけ」で終わって、モヤモヤ感を残すようにしている。おそらくみんなの共通に関心ある問題であろうことをテーマに取り上げているから。ここでまた「自分ごと」っていう言葉を思い出すけど、講演者の話を聞きに来た「お客さん」でなく、自分自身のこととして考える機会として欲しい、ということなんだろうな。


根本に、学びたい人をおもてなしして、安心してリラックスして学んで欲しい、学ぶことを楽しんでほしい、他ではできない経験をしてほしい……という思いが流れていて、ほんと、行きたいと思いました。
でも、一番印象的なのは、ラーニングバーってこういうもの、という形ができてしまうのを恐れ、常に壊そうとしているところ。最後にラーニングバーに関わった人たちとの対談を掲載しているのだけど、これでいいのか?という問いかけがすごく強く感じられる。ラーニングバーはもやもや感を残すっていうけど、この本自体が、「ラーニングバーはこんな工夫をしてこうやってます」と書いていながら「これでいいのか?」と対談して脱構築しようとしていて、読後にもやもや感が残るんですよ。
ラーニングバーはオープンソースなのだそうだ。ラーニングバーの最後に、「自分たちでBarを作ろう」と著者は常に語りかけるのだそうだ。実際企業内で開催したり、派生してちょっと違うBarをやっているケースもあるそうだ。


そして読後、調べて愕然としてしまったのだけど、こんな素晴らしいラーニングバーは、もう開催しなくなったらしいのだ。がーん。
http://www.nakahara-lab.net/learningbar.html
幸い、ラーニングバーの後継なのだろうか。このような社団法人があって、著者が代表理事をしている。

経営学習研究所
http://mallweb.jp/
研究所理事には、この本に登場した方々が並んでいる。

働く女性ラボとか、すんごく面白そうじゃないですか。こういう肩の力が抜けた女性向けイベントなら、もっさりした私でも行けるだろうか。(でも写真見るとみんなおっしゃれー…きゃー…)
http://maholab.net/?p=382
行ってみたいですねー。行きたいよー。

仙台でも、もっと「楽しむ」学びのイベントがあればいいのに、と思う。
飲食ありの勉強会もあるけど、やっぱり東北人は真面目で硬いので、飲みながら学ぶなんて無理、とおもっちゃうんだろうか。
会場もただの会議室まんまの、殺風景なとこだったりするし。
飾りとか、食べ物とか、BGMとか、工夫してみたいですね。