仙台広瀬川ワイルド系ワーキングマザー社長

ビールと温泉と面白いものが好きな大学生男子の母。

水飲み猫

いつものように河原で、大きめの適当な石を見つけて、座っていた。
川べりに緑が増え、枯れ草色だった景色が徐々に春らしい眺めになってきた頃のことだ。

ふと、目を川向うにやると、猫がいた。二匹。黒白と、白茶。(先の色の方が面積が広いと思ってください)首輪をしていないし毛並みからすると、野良のようだ。
川向うには畑がある。畑と川べりの間は急勾配の草むらになっていた。川の向こう側は、こちらのように浅瀬ではなく、深い。水を汲むためなのか、ところどころ川までおりられるよう雑草が踏み固められて道ができている。
猫たちがそのけもの道を、そろそろと降りてきた。そして、白茶が、そうっと、川のほうに身を乗り出していた。
え?危ない!落ちるよ。魚でもいるの?鳥にちょっかいを出すの?
流れは速くはないが、人間が落ちても危なそう。白茶がそろそろと川辺まで近づき、黒白がすぐ後ろにいる。黒白は白茶を見守っているように見えた。
白茶は、足が水に濡れそうなくらい水際のギリギリまで降りると、川に顔を近づけて、ペロペロと水を飲んだ。ちょっと飲んで、すぐびくっと首を引っ込める。また、そおっと首を伸ばして、飲む。白茶がびくっと首をひっこめるたび、黒白もちょっと体をすくませる。
あら、水を飲みたかっただけなんだ。でも、初めて見た。猫って川から水を飲むものなんだ。他に飲むところがなければ、そりゃ、飲むんだろうな。
でも、あぶなっかしい。大丈夫なんだろうか。落ちないでよね、私の目の前で。落ちたって、私は助けにいけないぞ。あんな深いところ。下流は浅くなっているところがあるから、もし落ちてもなんとかひっかかって助かるよね。でも、そこまでがんばってくれるだろうか。猫は水が苦手だから泳げないだろうな。
…などと、勝手に想像をたくましくしていた。
そのうち白茶は、首をあげると、ふいに、ぴょこんと横に跳ねた。若草の生え始めた地面から「ぱしっ」と音がしそうだった。瀬音が大きくて聞こえなかったけど。
虫かトカゲでもいたらしい。前足で捕まえようと、なんどか草むらを叩く。また、ハラハラした。すこし上とはいえ、川からは30cmも離れていない。おいおい、そんなことしてたら落ちちゃうよ。
獲物は捕まえられなかったか、または気のせいだったのか。白茶の姿勢から好奇心と緊張が抜けたのが見て取れた。そして上の畑の方へ戻っていった。黒白も、後を追った。
その後は黒白の方が先導して、二匹は下流の方へのんびりと歩いて行った。ああ、良かった、落ちなくて。
野良だし、実は、ああやって水飲むの、慣れてるのかもしれない。
こころなしか、黒白のほうが体が大きく見えた。親子だったんだろうか。いや、兄弟か。
川に行くと、いろんな野良猫に会う。日当たりの良い日は土手で目を細めてひなたぼっこしている。誰かが餌を与えているのを見たこともあるけど、基本、生きていくのは厳しいんだろう。
それでも、住宅地の野良猫よりは幸せそうに見えてしまうのは、人間の思い込みだろうか。