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仙台広瀬川ワイルド系ワーキングマザー社長

ビールと温泉と面白いものが好きな46歳、高校生男子の母。

「こころが折れそうになったとき」上原隆

こころが折れそうになったとき

こころが折れそうになったとき

悲しさと苦しさを、ふっと和らげてくれた本。
これはすごい本だ。
すごいと言っても魂を揺さぶられるような感動はないし、どちらかというと静かに重たい衝撃の連続だ。
私のように「自分を砂粒のように感じた」ことのある人には、手にとって欲しい。多少哲学的な深い思考が苦にならない人なら、なお、おすすめ。


なぜか2冊あったのだ。ノラヤに。なんだよ、弟のやつ間違ってよこしたなと思った。スピリチュアルのような自己啓発のようなタイトルに、私の嫌いな系統の生き方指南本かと、避けていた。だが2冊もあるというのは何か理由があるのかもしれないと思い、読み始めた。
内容は全然違った。著者がたくさんの人達に出会って、話を聞いて、その物語を書いたものだった。

著者の上原氏は、これまで300人以上の人たちから話を聞いてきたという。帯にはこう書かれている。

困難に出会い、自分を砂粒のように感じたとき、人はどうやって自分を支えているのだろう。

「自分を砂粒のように」という表現が的確すぎて胸に刺さった。自分には何の価値もない、とか、誰にも愛されていない、とか、なにを生きがいにしたらいいかわからない、生きていて何が楽しいかわからない、自分なんていなくなってもいい気がする………そういう気持ちを抱いてこの世の片隅に存在しているとき、存在価値がしゅうっと縮まって、砂粒のような心持ちになる。
この本にはそんな人たちがたくさん出てくる。上原氏は彼らに会いに行って、話を聞く。質問をしてことばを引き出す。えっ、そんなことまで聞くの、と、読んでいるこちらが慌てそうなことも。
上原氏の姿勢はずっと謙虚で、眼差しはあたたかくもつめたくもない、常温の水のようだ。自分の気持ちを述べて、相手から引き出された言葉を勝手に曲げたり深堀りして解釈するのではなく、そのまま、その言葉に心をうたれたことを、ストレートに文章にしている。だからこちらも、相手の言葉が水のように滲みこんでくる。困難にあった人間の言葉だから切実だけど、素直に響く。

読んでいて一番衝撃だったのは、須原一秀氏についての章。須原氏は『自死という生き方―覚悟して逝った哲学者』という本を書いた哲学者だ。自殺をやむなく行ったわけではなく進んで幸福の頂点で実行するという形もある、と何人かの自殺者をとりあげて、なんと自分自身も自殺してしまう。その過程も本になっているというのだ。
そんな風に死なれたら、自殺が幸せな形だなんて言われて死なれたら、家族はどう思うだろうか。上原氏は須原氏の家族と、いちばん最後まで立ち会った人に会いに行くのだ。
この人達の言葉が、本当に、なんていうか、「なま」。こんな困難に巻き込まれて、それでも生活し、人生は続く、その日々を過ごした実感が込められている。生きるのって、こういう言葉を伝えられるからなのか、と思ってしまう。自死についての是非は、もちろん上原氏は一切言及しない。そして最後にこう述べる。

私は、その人ならではの個別の心のひだに心動かされている。同時に、それがもうこの世にないのだという思いに襲われて慄然としたのだ。
個別のひだは、この世にそれしかない唯一のものだ。死とは唯一のものが永遠に失われることだ。そのことに私は不可解な感じと畏れを感じているのだと思う。

なんで人の死が悲しいのか、についての、腑に落ちる答えだと思った。


須原氏の家族と同じように、途方にくれるような出来事や、困難に出会った人は、どうしているのか。多くの話を読んでいくうちに、ふと気づいた。
生きていくには、前に進むためには、希望や明るい未来がないといけない。いつか幸せになれると信じて進まなければいけない。
苦しくても、希望をみつけよう。目標をみつけよう。ささやかな楽しみをみつけよう。暗闇の中に一条の光を見出して前へ進もう。
そのような考えは、一般常識のように我々を支配している。
でも、実は、未来も、希望も、楽しいことも何もなくても、人って生きていけるんじゃないか。
「仕方なく生きている」でも「生きていかなければならない」でも、ない。単に「生きていける」。
だから夢や希望を無理矢理決めたり、創りだしたりする必要もないんじゃないか。空虚な、かなうはずもない望みを設定して、それに向かって地に足のつかない歩き方をするより、たとえ明日が今日より良くならなくても、体を傾けたら勝手に足が出る。その一歩が本当の強さなんじゃないか。
そう思った。
そう思ったら、夢も希望も明るい未来もないのを、嘆くことはない。なぁんだ、そんなもんなくてもいいや。ちゃんと生きていけるんだ。と、気分が楽になったのだ。


一度ぱたんと閉じてしまうと、なかなか再度開きづらい。
それぐらい、ちょっと内容は重い本だ。
でも、また時々読み返そうと思った。


さらに、須原一秀氏の本も読まねばと思って、図書館で予約した。かなり読むのしんどそうだけど。
上原隆氏の本もいろいろ読んでみたいと思って予約している。

追記:読んだ感想。
monyakata.hatenadiary.jp