仙台広瀬川ワイルド系ワーキングマザー社長

ビールと温泉と面白いものが好きな大学生男子の母。

「実践 料理のへそ!」小林カツ代

誰かとご飯を食べるのがデフォルトになってしまうと、ぼっち飯って、なんて幸せなんだろうと気づく。
特に、自分のために作って自分で食べる、ぼっち自炊飯とでも言おうか。
自分の好きなものを、自分のためだけに作る。
スマホをいじったり、PCの画面を見ながら上の空で食べるような人のために、料理するのでは、ない。義務感でごはんがあるから食べるというような人もいない。
そこには、その料理を心から待ち構えている最愛の自分しかいないのだ。
これほどやりがいがある料理があるだろうか。


それで、この本。
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著者の小林カツ代さんは言わずと知れた料理研究家。家庭の昔ながらの料理のレシピを数多く生み出してきた。今年1月、惜しまれて亡くなった。

特にそう書かれていないんだけど、この本に出てくる料理は基本「ぼっち自炊飯」だ。
がーっと作れて、間違いなく満足。量は1人か2人分。
新書だから、一般的レシピ本とは違う。文章だけで畳み掛けて写真はない。イラストもほんの数点。だから料理の初心者にこれを見て「作れ」と言っても無理だと思う。しかし、ある程度経験詰んだ人なら、間違いなく「ああっ作りたい!」と、なると思う。

なにしろ全文喋り言葉で、すごい勢いで、話しはあっちゃこっちゃ脱線しつつ、どんどん料理が説明されていく。レシピ本に必須の量や時間やテクニックはすべて、擬音だ。
「ピャ〜ッ」「カペーッ」「シャッシャッシャッ」「コトコトコトコト」「エイヤーッ」「ムニュムニュムニュ」
でてくる料理がまた、うまそうなのだ。たまらん。冒頭なんてただの、ごはんだ。塩かけごはん。それでも。

一人で食べる贅沢、というのがあります。
すわ、炊きあがった!という電気釜の蓋を開ける。一気に湯気が上がる。すかさず、その炊きあがったご飯の表面をしゃもじでピューッと取る。削ぐように。ちょうど、子供の描く「ワァー」と笑っている口に似た形に取れますよ。これを茶碗によそい、塩を降って食べる。他にな〜んにもいらないくらい美味しい。

いますぐ、ごはんを炊いて塩をかけて食べたくなってしまう。

春菊は茹でるばかりが能ではありません。根っこを持ってシャッシャッシャッと洗ったら、根っこを切り落として、油で焼くように炒めると美味しいです。塩をパラパラ、レモンをジュッ。あるいは醤油をチョッ。緑のものを油で炒めると、ビタミンAの吸収がよくなるらしいし。
昔、神戸に住んでいたとき、好きなお好み焼き屋があって、お好み焼きはいとまずく、焼きソバはいとうまし、でした。その焼きソバが春菊とキャベツが焼き付けるように入っていたんです。

春菊を焼き付けるように炒めた、こおばしい香りが漂ってくる。
もやしは賢い!とか、梅干しは偉い!とか、きのこは楽!とか、栄養価云々より直感的表現が多い。

断じて高級料理風オムライスは間違っているっ!ね?

というふうに、いきなり断じたりする。ね?って言われましても。でも気持ちはわかる。
家庭でやるとめんどくさいことは、「やらなくていい」と、ばっさり。料理の常識といわれるセオリーもすごい勢いでぶっとばす。
出汁を取る時の昆布は煮立ってもいい、かつお節はギューッと絞る。普通、煮立つ前に昆布は取り出し、かつお節は絞ってはダメ、というのに。
道場六三郎さんの言葉として引用しているけど、

だしを取った後の昆布を何かに使えないか、と人は言う。でも、何かにして美味しいぐらいだったら、だしがちゃんと出てないということなんだけどな、と。同感!

という一文は、気が楽になった。だしがらの昆布、真面目に冷凍してとっておいて佃煮にしたこともあるけど、結局そんなにおいしくないし食べないんだもんね。

パラパラっと書いてあったら、パラパラッ、ピャーと書いてあったらピャーと垂らして、あっという間にできるおいしい料理。じっくり時間をかける料理も出てくるけど、多くは、自分のためだけに作りたい、一人で食べて「ああうまい!」と思えるものばかり。
仕事をしている人なら、疲れて帰ってから「ああ、あれを作ろう」と思うと元気が出るような。
家庭の主婦なら、「そうだ、今日の昼は一人であれを食べよう」と思うと、しんどい家事も少しはがんばってできるような。
そんな料理が一杯。ふらりとコンビニに寄れば住む昨今だけど、自分のために自分が料理して、ちょっと幸せになりたい。そういうときも、あるよね。

私はこの本を読んで、安い刺し身を漬けにしたり、インスタントラーメンのためにもやしを買ってきましたよ。空腹時には読んでしまわないよう、注意。