仙台広瀬川ワイルド系ワーキングマザー社長

ビールと温泉と面白いものが好きな46歳、高校生男子の母。

悲しくなって、ちょっと前向きになって、そして高円寺に行きたくなる。―「活字と自活」荻原魚雷

前に「冬の本」を読んだ時に荻原魚雷という人の書いた文に魅せられ尾崎一雄の本を読んだんだけど、荻原魚雷という名前にも妙に惹かれて、読みたくなって図書館で借りた。

活字と自活

活字と自活

どういう人なのかまったく予備知識なく読んだら、古本を読み、探し、音楽を聞き、妻はいるらしいけど、フリーライターだけでは生活できず、アルバイトをしている。そういう人らしい。なんだか自分と重なる。
大学を卒業してからずっと、荻原さんはライターをしているらしい。高円寺という駄目っぽい人がたくさん住んでいる町が気に入って暮らしている。「文壇高円寺」 というブログ*1も書いていて、本の一部はそれの加筆修正だそうだ。最初の章は「高円寺ぐらし」。荻原さんは何度も引っ越しをしているが、もちろん家なんて買えるはずもなく、安いアパートを転々として、ときには立退きにあい、ひたすら古本屋をめぐり、文を書き、飲みに行き、アルバイトをし、昼に寝て夜に活動。

真ん中の章「わたしの本棚」は、本の紹介。本のジャンルは古いものから新しいものまで、マンガも文学も詩集も、なんでもかんでもある。
ほんとうに本が好きで、本をなんでも大量に読める人は、こんな文を書けるんだなぁ。本が好きという気持ちが伝わってくる。本の中の一番のエッセンスを引用して、しみじみとした心の動きを添えて。著者と著書について、時代背景、文壇の横の繋がりなども紹介して語る。ただその本を読んだだけではわからないことまでわかるから、よりいっそう惹かれるわけだ。ブックレビューはかくあるべきだと思う。もっとも私には真似できない。これだけ書けるためには、どんだけの知識が必要なんだろうと思う。
でも、いくら豊富な知識があっても、ライターは、稼げない。というか、荻原さんは稼ぐ生活を目指していない。
表題の「活字と自活」を含む最後の章「夜型生活入門」は、主にこの食えない生活周辺のエッセイだ。読んでいると悲しくなっていたたまれなくなってズキズキ刺さる。
私は文章書きではないけど、ウェブ屋として自営業を9年くらいやって、自分にも覚えのあることばかりだった。道具に投資し仕事につなげようとしても、そうはいかない。やりたくない仕事は断っていたら仕事がなくなってしまった。多くの人に断られた末自分のところに来たやっつけ仕事をやっても、次に繋がらない。なんでもやりますというフットワークの軽い体力のある新人にどんどん押され、中年は居場所がなくなる。etc。
好きでやってることでは全然稼げなくて、そしてアルバイトもしている。そんな生き方は、まっとうな経営者や勤め人からは眉をひそめられるだろう。荻原さんはそれでもいいとは書いていないけど、なんだか私は初めて肯定されたと思ってちょっと今の生活を前向きにとらえらることができた。ただ、私は「養われている」という点で、さらに肩身が狭い。良い悪いじゃなく、これは私自身が嫌なだけだけど。
ほとんど最後に書かれた、荻原さん40歳の時のこの言葉が、沁みる。

「三十歳まで続けることができればどうにかなる」という言葉の意味はわかるようになった。そのくらいの齢まで続けていると、他の選択肢がどんどんなくなってくる。
 どんな仕事にも、向き不向きがある。
 やりたいことを考えるのもいいが、やりたくないことを考えるのもいいのではないかとおもう。
 冷静に自分の欠陥、欠点を見つめれば、できないことの範囲が定まってくる。
 おそらく好きな仕事に就くことよりも、自分のやっている仕事を好きになることのほうが簡単である。

 そのことを昔の自分に教えてやりたい。

もう、泣けてくる。自分は何も持っていないことを、否が応でも実感する40代。私は好きだと思って10年以上やっていたIT系が実はそんなに好きじゃないことを最近知って、でも他のことができなくなってしまっていて、呆然としている。荻原さんのように、積み重なった読み続けた本の知識をいかすようなことは、IT関係ではないのだ。ここ数年、コワーキング関係にどうしようもなく惹かれて首をつっこみ、そしてやっぱり自分が好きなようにやってるから、稼げない。どうしたらいいんだよう。
荻原さんは夜型生活だが私はどうしても「朝方生活」の人で夜はさっさと寝てしまう。稼げない自営業のわりに健全っぽくて悔しい。
高円寺で飲みながら、そんなどうしようもない愚痴を、誰かにしてみたい。

高円寺ってこけむさズの所在地としてしか知らなかったけど、こけむさズ訪問時に感じた町の雰囲気はたしかにすごく私好みだった。深夜でも夜明けでもお店が空いていて、飲めるそうだ。
今年は高円寺行くぞって心に決めたので、愚痴はともかく、この本を読んでいっそう行きたくなった。
ぶらぶらとひたすら歩いてみたい。

*1:本嫌いのくせに本を読んだらなんだか気が大きくなって、仙台×ミシマ社プロジェクトの方にtwitterで話しかけたときに、こちらのブログを教えていただいた