仙台広瀬川ワイルド系ワーキングマザー社長

ビールと温泉と面白いものが好きな大学生男子の母。

古市憲寿「保育園義務教育化」非認知能力、大事。

古市憲寿さんの本を、はじめてちゃんと買いました。薄いブルーを基調とした優しげな表紙で、古市さんとあかちゃん2人がふわっと存在している。実はウラ表紙の方が、赤ちゃんがかわいい。ページのはじっこにパラパラまんがつき。愛読者カードまで古市さんの手描きでどこまでも脱力させてくれる。

内容は基本的にまじめ。少子化を解消し、さらに社会全体のレベルアップもできる「保育園を義務教育にしたらいいんじゃないの」という提案である。

ひととおり読んですごく嬉しくなった。独身で子どもを持つ気も結婚する気もない、そういう立場の人である古市さんすら少子化がやばいと思っていて、語ってくれているのがありがたい。当事者が言うとどうしても感情的になってしまうからね。
とにかく立ち読みしてみたんだけど、冒頭からお母さんのボロボロな心をわしづかみだ。

「お母さん」が「人間」だって気付いてますか?

「そうだ……人間扱いされてない……」はっとしましたね。
おおかみこどもの雨と雪』を見た時、お母さんに倒れそうなくらい無理させてるのを美しい物語と描いているのが嫌でたまらなかったけど、お母さんなんてボロ雑巾のようになるのがお母さんも嬉しいんでしょ幸せなんでしょ、みたいな、世間の認識なんてそんなもんだ。ううう。そうなんだよ。古市さんありがとうわかってくれて……

文章は、これまでの古市さんの本と同じく、ゆるふわしていて、ときどきずっこけそうなネタや突っ込みが入っていて、「ふへっ」と笑いながら楽しく読んだ。

素晴らしいから息子にも読ませようと、うきうきしつつ思いつつ読み進めていたら、第5章は3行に1回の割合で「セックス」という言葉がでてきて目が点になった。ええとなんだっけこの本のタイトル…でも第5章は「男女を出会わせればセックスして子どもができるだろ」みたいな脳天気な少子化対策を考えている方々に読んでいただきたい。コンビニでもコンドーム買えるしラブホにも置いてあるのになんでセックスしただけで子どもができると思うのか。

気をとりなおして。保育園で期待される早期教育は「非認知能力」を高めることができ、それは学力やIQとはまた別で、大人になっても生き残るための大事な能力なのだそうな。

ちょっと聞き慣れない言葉だが、「非認知能力」とは「人間力」や「生きる力」のようなものだ。
社会性があるとか、意欲的であるとか、忍耐力があるとか、すぐに立ち直る力があるとか、広い意味で生きていくために必要な「能力」のことを、経済学者や心理学者たちは「非認知能力」と呼ぶ。

保育園は、ほんとうにいいと思います。
うちはものすごい個性的な保育園に息子が1歳の時から小学校入学までお世話になった。息子は個性をのばしてもらい、処世術を学び、育児が辛くてしかたなかった私は仕事をして、育児ノイローゼ状態にならずに済んだ。ワイルドでお勉強色が皆無の保育園だったけど、子どもらは大量の本や遊び道具に囲まれ、歌も演技も体力も、小学校に上がるとなまぬるく感じるぐらいいろいろ仕込まれたので早期教育と言えると思う。いろいろ勘違いと偶然で入った保育園だけど、「非認知能力」は確実に磨かれたと思う。

ただし、それが生かせるかどうかは別の話で。
「ああ、息子は保育園に行ってよかった」と読んでいたら

行動経済学者の池田新介さんの研究によれば、子どもの頃、夏休みの宿題をギリギリまでやらず、休みの最後にしていた人ほど、借金が多く、喫煙傾向にあり、肥満者になる確率が高いのだという。

という記述をみつけて、息子がまさに、夏休み最後の日どころか夏休み終わってから宿題に取り組んでいたところだったので、ずどーんと落ち込んでしまった。息子の非認知能力は……。

それにしても、早期教育は「コスパが良い」という指摘があったけど、ちょっと本文とは違う意味で、頷かずにはいられない。
私の実感としては「親の言うこと聞く素直なうちにいろいろ仕込んどけ」である。親の持ってきた本を読み、親がやろうよと言うことをやり、親と一緒にお出かけするのが大好きな時期に。それにその頃の吸収力は半端ない。(ほんとうにあの頃、『まんがサイエンス』を読ませてよかった。中学生になっても役立ってますよ)
小学校中学年以降は素直じゃなくなるし中学生になったらもう壊滅的にダメ。
「◯◯に行こう」「は?なんで俺が行く必要があるわけ?」「君のためになるしとっても面白いんだ」「それはかあちゃんがそう思うだけでしょ。俺がなんで言いなりにならなきゃいけないの。1人で行けば。」
エヴァに乗った碇シンジくんが素直に思えてくるぐらいだ。
なぜか息子はすごく口が達者なので(あれ、これってもしかして「非認知能力」だろうか)、口下手な私はいつも、すごすごと引き下がるのだ。プロでないとこいつらは説得できない。だから塾や習い事があるんだろう。大人になってようやく「学びたい」と気付き、学ぼうとしたらもう大変。「大人になってからも学ぶ機会はいくらでもある」というのは正論だけど、大人は仕事しなきゃいけないし家庭も持ってたりするから、経済力や使える時間が充分にない状態では無理。
子ども料金だったり公共交通機関がタダだったりするうちに、イベント行ったり博物館に行ったりキャンプしたりいろんなところに連れていっていろんな経験をさせたのは、当時は子どものためと思わず子どもをネタに自分が行きたいだけだったけど、潜在的な非認知能力の発達にはよかったんではないかなと思う。その能力がどっかに残っていることを願うばかりだ。

なんだか思春期の子を持つ親の愚痴になってしまった。

挑戦的なタイトルなので、タイトル読んだだけで反感を持つ人が多いかもしれないけど、これまでの育児のまちがった常識に丁寧に解説を加えているのでぜひ読んで欲しい。残念なのは、ちょっと短いこと。もっと長くねっちりと、古市さんの文章を楽しみたかった……。