仙台広瀬川ワイルド系ワーキングマザー社長

ビールと温泉と面白いものが好きな46歳、高校生男子の母。

「脳が壊れた」

脳が壊れた (新潮新書)

脳が壊れた (新潮新書)


いやーこれは面白かったですよ。
41歳で脳梗塞を発症し、高次脳機能障害が残った著者の経験談

脳が壊れるとどうなるのか、の一例が本人の口から語られる。脳が壊れた当事者がこうやって本を出せるまでになるんだというのがまずびっくり。
著者はフリーランスの取材記者。ずいぶん重たい体験なのに、文章は読みやすくそして笑えるポイントもちりばめられてて、楽しく読める。そして全体を通して著者はとてもポジティブだ。これまで貧困層や社会から外れているような人たちを主に取材対象としてきた著者は、脳梗塞を僥倖ととらえる。自分の症状と取材対象だった人たちを重ね合わせ、何かしらの原因で人と同じことができなくなってしまっている彼らの気持ちを「追体験できる!」として、自分をつぶさに観察し記述するのだ。
脳に何か起きた場合の後遺症としては、麻痺や言語障害をまず思い浮かべる。そういう後遺症はわかりやすい。私の父も脳腫瘍を患い、手術後は喋れなくて体がうごかなくなって、別人になってしまった。だが著者のケースは、一見後遺症があるとわかりづらい。わかりづらいのに、いやわかりづらいからこそ、本人はとても辛い。たとえば半空間無視。左側が見えない、というか「ないことにしたい」ので見れない。そしてみえる方の右側を注視してしまう。結果的に目をそらしてへんな方向にガンを飛ばす、ただのむかつくやつになる。それから感情失禁。感情が溢れ出して起伏が激しくなり、すぐ感動して号泣してしまう。ちょっと怖い。とにかく「普通なのになんかおかしい人」になってしまうのだ。本当におかしい人ならおかしい自覚はないけど、著者の場合はおかしい自覚があるのに、それをやってしまう。これは辛いだろう。

興味深かったのが、リハビリについて書かれた部分だ。
指の曲げ伸ばしすらできない状態から、どうにかして機能を回復しなければならない。いったいどうやっていくのか。じわじわと少しずつ回復していく過程、苦悩と工夫と喜びが詳しく書かれている。
リハビリは「駄菓子屋のくじ引き」なのだそうだ。これをやればこれが動くか?と試して、「あたり」が出たらその「あたり」の感覚を覚えていく。そうやって、新たな動く回路を作っていくのだそうだ。体って脳ってそういうふうにできているんだ、すごいなと思った。

後の方ではそもそもなぜ脳梗塞になったのかの原因も考えている。著者はちょっと大変な……おそらく発達障害のある奥さんを持ち、奥さんも脳疾患で死にかけ、その結果ほとんどの家事をこなしていた。その上何時間にもわたる取材をし、睡眠不足なまま仕事をし、さらに趣味でバイク。……そろそろ「過労死する」と冗談で言っていたら本当に死にかけたということだ。脳梗塞をきっかけに、生活を見直し、そしてそんな生活をせざるをえなかった自分の性格を見直し、改善していった。

脳梗塞になってよかったとは言ってはいけないと思うが、取材記者である著者にとってはあらゆる意味で「貴重な体験」だったのだろう。生き方すべてを変えて、はじめて「プロ」になった気がする、と述べている。
私は著者の書いた他の本も読みたくなった。重いタイトルのものばかりだけど、この人の本なら読める気がする。

最貧困女子 (幻冬舎新書)

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