仙台広瀬川ワイルド系ワーキングマザー社長

ビールと温泉と面白いものが好きな大学生男子の母。

岡崎武志さん、荻原魚雷さんの話を聞きに行ってきた、兼、「日常学事始」レビュー


先日、THE6で開催されたこちらのイベントに行ってきました。荻原魚雷さんに仙台で会えるなんて。

the6.jp

会場には「ゆるい生き方」が好きそうな人、というよりは「読書家」っぽいきちんとした方が満ち溢れていて、ちょっと圧倒された。女性が多い。黒髪ストレートメガネロングスカート、みたいな。お二人は古本界隈の方なんで、そういうのが好きな人が集まったのだと思います。
しかしそんな雰囲気の中、前に座っている荻原さんと岡崎さんのお二人はビール飲み始めているんです。素敵すぎる。

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左:岡崎さん 右:魚雷さん

明日バイトがなかったら私もビール飲みながら聞きたかった。しかし周囲を見回すと誰一人飲んでいない。超真面目っぽい。

トークは、岡崎さんのゆるやかな関西弁と、それに魚雷さんがぽつぽつと補足を加えるかんじで進んだ。魚雷さんはあんま喋んない人らしく、ものすごく親近感を持った。「だいたいこんなかんじなんです。ふたりでなんかイベントやると私がほとんど喋ってる」と岡崎さん。
岡崎さんはこの日、青森も回って古本屋に行ってきたらしい。私は本を滅多に買わないし古本事情も全然知らないので「あの◯◯という古本屋あるでしょう」「◯◯の本が」と言われて会場の多くの人がうなずきまくるときに、ついていけなかった。しかし古本屋の世界も奥が深いんだなと感心して聞いてた。仙台にも個性豊かな古本屋があるそうだ。萬葉堂書店も火星の庭も名前は有名だけど入ったことない。でもそういえば学生の時や社会人なりたての頃は、住んでいる町に必ず1軒古本屋があって、夜遅くまでぼんやり明かりがついてて、酔った勢いで入ってへんなまんがを見つけては買ったりしていた。友人が引っ越す際大友克洋のマンガを大量におしつけて行った時はまんが専門の古本屋に持って行った。みんな無くなってしまった。そしてトークにもあったけど、古本屋の店主はみんな怖かった。持っていった文庫本を「ゴミにしかならない」と睨まれたときは怖かったし悲しかったしトラウマになった。
「古本屋ってのは他のまともな仕事に就けない人がやってるよね」と岡崎さんが言う。笑い。そうなのか。私と似た人たちだったのかもしれない。話題があっちゃこっちゃに飛ぶ。でもそれが可笑しくてしかたがない。


そもそも、今日は岡崎さんと魚雷さんの新刊のお話だった。岡崎さんの本はこれから読みます、すみません。
魚雷さんの本は買った。

これ「若い人のために」と書いてあるけど、ちっとも若くない私にもすごく役に立つ嬉しい話がたくさん書いてあって、ていねいな生活でもなく貧乏生活でもなく、しみったれている私にぴったりなのだ。本気で実生活に取り入れている。
実際私は、洗濯ネットは買い足したし、もやしを神経質に洗わなくなったし、締め切ったままの息子の部屋の窓を不在時にこっそりあけて換気するようになったし、服を買いたい衝動に駆られたら「待て一着捨ててからだ!捨てたいと思う服があるか?」と自問自答して我慢するし、納豆と豆腐のまぜまぜペーストは早朝バイトがある日の定番朝食になった。
「洗濯ネットの話からこの連載がはじまった」と、魚雷さんが言うと岡崎さんが「それを若い人に伝えたかったと!じゃぁ魚雷印の洗濯ネット売ったらいいんじゃない」。会場は笑いに包まれるが私は発売されたら真っ先に買うと思った。(その時は確実に10年以上使っている洗濯ネットを1個引退させよう)
それと、焼き魚の残りを出汁にするという話。これも岡崎さんが話題にして会場はどうしようもない笑いに包まれたのだけど、「日常学事始」でこの部分を読んだ時私は衝撃を受けたのだ。「私以外に、これをやっている人がいる!」と。サンマやアジでもおいしいし、鯛の(富裕層きどりじゃないです、安い時たまにしか食べない)食べた後の骨とヒレと頭で取れる出汁は絶品で、味噌汁にするにはもったいないのでちょっとしょうがをおろしてネギを刻んで入れて塩だけで軽く味付けするスープにすると本気で旨いです、そうめんも合うかもしれない。ちなみに細かい骨はざるでは除ききれないので、三角コーナー用のネット使ってこしてます、これは人によっては抵抗感あるかもしれないけど。いや、ほとんどの人が抵抗感あるか。
この会場に魚雷さんのtipsを本当に実行している人はどれぐらいいるのだろうか。
トークでは話題にならなかったが、この本の中で一番好きなのは、この部分。

「ひる寝にかぎらず、五分でも十分でもひまがあれば、からだを水平に横たえて、楽にして、ワシは休むことにしている、地球の重力になじむことはええことや、人間はもともとそうするように出来ているんだから」
(p.171: 睡眠を優先する生活)

これは天野忠の随筆の中に出てきた、ある病院長さんのアドバイスだそうだ。なんとも味わい深い文章だ。勝手に知人の関西出身の医師の声で再生される。からだを横たえ、地球の重力にいますぐなじんで、穴の中にどんどんしみこんで行きたくなる。


話題は近頃の若者へのアドバイスへ。魚雷さんも岡崎さんも収入が低ければ「アルバイトすればええ」と言う。
岡崎さんは古本屋をやりたいという若者からよく相談を受けるが、「みんな収支とか難しく考えすぎや」という。「ここは立地が、人通りがー、言うて。そんなこと言ってたらいつまでたってもできへん。やりながら学ぶんですよ。ノウハウは後からついていく」魚雷さんも「食えないライターをやしなうように、出版社にはいろんな小さな仕事があるんです。出入りするうち声をかけてもらえる。ライターをやる前はそんなのがあると知らなかった」と言う。だからやりたければその世界にまずなんとかもぐりこんで始めてしまおう、と。

これはとても励まされる話だった。
まさに私は稼げないコワーキングスペースをやってる。立地とか収支とか考えたら絶対手を出せない商売だ。だからバイトもしている。周囲に起業だベンチャーだ、稼げないなら助成金、みたいな立派な人たちが多いので萎縮していたけど、別にうちみたいなやり方でもいいんだ、と思った。(という話をこっちにも書いた)まぁただし私は夫に養われているので悔しいんだけどね。

偶然だけど、ここでブログを書くのをひと休みして開いた本に、こんな文があった。

今、「金もないけど、就職もしたくない」という思いを抱いている若者たちはいったいどのような道を歩んでいるのだろうか?かつで僕もそんな一員だっただけに、現在の閉塞した社会状況はとれも心配である。抜け道の数が多ければ多いほどその社会は良い社会であると僕は思っている。

村上春樹が書いたものだ。続けて著者が、

この文章が書かれたのは1980年台のはじめであり、今から30年ほどの年月が経っている。(中略)21世紀の日本で、「抜け道」があると感じることができる人はどれだけいるだろう。

と述べている。
商店街はなぜ滅びるのか 社会・政治・経済史から探る再生の道 (光文社新書)

確かにその通りなんだけど、「金もないけど、就職もしたくない」けど、「立派でいたい」「まともでいたい」人が多いんじゃないだろうか。大多数の人が行かない光の当たらない道をゆるく生きる、岡崎さんや魚雷さんの言うような生き方もありなんじゃないだろうか。
私はそうしようと思う。全然若者じゃないけど。


トークが終わって荻原魚雷さんにご挨拶してサインをしてもらった。言いたいことはたくさんあったけどこういう時にとっさに言葉が出てこなくて、へごもごしてしまう。「洗濯ネットを買い足しました、納豆と豆腐をまぜたやつ、おいしいです」としか言えなかった。魚雷さんは「味噌汁にいれてもおいしいですよ」と優しくこたえてくださった。

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あっ!コンビニのフォークの柄でこすってもレンジの汚れが落ちなかった話をするのを忘れた。うちのはよっぽど強靭な汚れだったのだろうなぁ。普段は絶対もらわないパスタのフォークを貰って、トライしたのに。
では、書き終えたので地球の重力になじむことにします。