仙台広瀬川ワイルド系ワーキングマザー社長

ビールと温泉と面白いものが好きな49歳、高校生男子の母。

「全米最高視聴率男の『最強の伝え方』」アラン・アルダ

「パパ!見て!これ、へんなうごきになっちゃった!」

「……ふん、collisionが起きてるんだろう」

男の子が笑いながら語りかけると、大学教員だという父親は、なにが面白いのかというような口ぶりでこう答えた。

子供向けプログラミング体験会を行っていたときのことだ。はじめてのプログラミングを進めていくうちに、思いもしない動作をすることが多い。なぜこうなったのだろう、と考えることはとても大事だし、間違った動きでも子供には不思議で面白い。そんな子供のはしゃいだ気持ちに、水を浴びせるような冷たさを感じた。唖然とした。

…こりじょん…小学校低学年の子に、こりじょん…いや、日本語だったとしても、もうちょっと、なんか言い方……

 

この本を読んでいたら、この時の光景が思い出された。

サイエンスコミュニケーションの本である。

全米最高視聴率男の「最強の伝え方」

全米最高視聴率男の「最強の伝え方」

 

なんと著者は俳優なのだ。科学者ではない。大学の先生じゃない。

この変な邦題のせいで(自己啓発本じゃないんだから)本来手にとるべき科学者や大学の先生が「ふん、」とスルーしてしまいそうで悲しい。もっと読まれてほしい。

 

理系のサイエンスの専門の方々の「伝え方」「話し方」が固くて、わかりづらくて、素人をおいてけぼりにする。それは多くの人が経験し実感していることだろう。

自分たちが聞く側だった場合、そのもやもやした気持ちは自分を責める方向に向かって終わる。「だって、わたしが頭悪いんだもの。理解できなくたってしょうがないよね」

しかしいまや、アウトリーチ活動は必須だ。研究者の方々は、広く社会に研究成果をわかりやすく伝えなければならない。大変ですね……ほんとうに、おつかれさまです。

一方私は、まったくの個人的興味で大人のためのサイエンスを楽しく学ぶ場「ノラヤサイエンスバー」なんかを主催している。一応事業としてエンタテイメントとしてやってるので、いかに集客し当日いかに楽しんでもらうか、どうしたら堅苦しくないか、どうしたらつまんない思いをする人が減るか、どうしたら「面白いことをたくさん知ることができた、楽しかった!」と思って帰ってもらえるか、悩みつつやってる。だから「先生におまかせ、好きに喋ってください、テーマはなんでもいいです」なんて絶対言えない。

話が逸れたが、何度も何度も、もやもやしたりヒリヒリする体験をして、この本にも何かサイエンスバーをより良いイベントにするヒントがあるんじゃないか。そう思って手に取った。

著者は、「サイエンティフイック・アメリカン・フロンティア」という番組で、たくさんの科学者にインタビューしている。理知的な科学者の一方的な講義ではなく、なごやかな対話を通して生身の研究者に迫り、研究についての話を引き出しているそうだ。

キーワードは「即興」「共感」「ストーリー」。

通じ合っている感が生まれると、コミュニケーションが飛躍的にうまくいく。そして理解も驚くほどしやすくなる。「こんなものなんの役に立つんだ?」「くだらん」と軽視しそうなことが、実は効果的なんだなぁ、と思った。

ミラーエクササイズ、体を使ったゲーム。それらを体験した後に明らかに何かが変わる。私らも「アイスブレイク」やりますよね。見知らぬ人ばかりが集まって会場の空気が固まっているとき、アイスブレイクやると、ふわっと笑顔が広がって雰囲気が柔らかくなる。あれは場の空気を温めリラックスするだけではなく、お互いを理解する、理解してもらうのに効果的だったのだ。

専門用語を使うと、説明は楽だし、知的に見せることができる。でも、それでは幅広い人に理解してもらえない。著者は「炎って何?」を、11歳の子どもでもわかるよう説明するコンテストを科学者たちに提案し、それは実施された。実際子供が審査員になってチャンピオンが選ばれたそうだ。そのコンテストはその後子どもたちが課題を作る形で発展し開催されたという。面白そうだなぁ!

そしてなるほどと思ったのが「ストーリー」について。私達は無機質な説明より、物語を好み、より理解する。

「人となりなんて、どうでもいい。背景なんて、どうでもいい。私らは、事実を知りたいだけなのだ」と思う人は多いだろう。

でも、感情を揺さぶり、親近感を持ってもらうほうが、より理解してもらえるのだそうだ。

例えば。少し前にこの記事が掲載された。「ストーリー」の持つ力を使った文章だと思う。淡々とステロイドについての医学的情報を連ねるより、よっぽど説得力がある。書いた人の苦悩と祈りがにじみ出ている。

あの日お会いすることができなかった「脱ステ」ママへの手紙

 

おそらくニセ科学界隈は、この感情を揺さぶる技術を駆使して信者を集めているのだろう。「なんでそんなこと信じるの!?」の、答えが、このへんにあるのかも。

情報をわかりやすく伝えるために、図、動画、やさしい言葉、たとえ話、まではみんなやってるだろう。もっと人間が感情を持った生き物であることを考えて臨む必要があるかもしれない。

「共感」「ストーリー」についてはなんとかできそうだけど、即興のエクササイズについては日本人はシャイなので難しいかも。でも効果があるなら、試してもいいと思った。