仙台広瀬川ワイルド系ワーキングマザー社長

ビールと温泉と面白いものが好きな高校生男子の母。

ぬか床を捨てた

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ぬか漬けはタッパーに入っている

少し前。

1年くらい育てたぬか床(ぬかどこ)を、ついに手放した。

庭に穴を掘って埋めた。捨てた、というより、葬った。

 

ぬか漬けを始めたのは、きっかけは約一年前の知人との会話。酔っ払っていたのであまり記憶にないが、たしか居酒屋にぬか漬けがあったので彼が頼み「東北の人はあまりぬか漬け食べないね」なんてことから、彼の実家で漬けていたぬか漬けの話になった。

「みょうがのぬか漬けが、おいしいんだよ」

その居酒屋のぬか漬けの味は忘れたが、自家製ならおいしいに違いない。自分で作ってぬか漬けで一杯、をやってみたくなったのだ。

手間がかかるのは知っていたが、おいしいものが手に入る手間だったら惜しくない。

スーパーでぬか漬けを買って食べてみた。ふうん、こういうものですか。なるほど。

 

ネットでぬか床の作り方を調べて、作ってみた。しばらく成長期間をおいたのち、やがていい具合につかるようになった。

いろいろ試した。

みょうがはもちろん。

きゅうりもおいしかった。パプリカ、ピーマンもおいしかった。なすも。ズッキーニも。

アボカドがおいしいと噂だったのでやってみた。味より崩れてぬかと一体化して面倒だった。

ゆで卵はけっこうおいしかった。

豆腐を漬けるとクリームチーズみたいだときいたのでやってみた。何度かやったが豆腐でしかなかった。

大根。の、皮。かぶ。かぼちゃ。人参。白菜。あらゆるものを漬けた。

キャベツを千切りにしてガーゼに包むと、ザワークラウトみたいになって自分は天才かと思った。

ナッツを漬けたら、酷いシンナー臭がして、二度とやらないと心に誓った。

ぬか床を別に分けて、肉や魚も漬けてみた。

ぬかが減ったら、精米所に行ってもらってきた。お手軽にスーパーの「たしぬか」を利用することもあった。

塩を足し、昆布や煮干しも足し、とうがらしを入れ。そしてぬかを足し。

もちろん、毎日、かきまぜた。

暑い時は冷蔵庫に入れなければならなかった。

 

ぬか床はまぎれもなく生き物だった。

ひとばん経つとパンの発酵後のように、全体が二酸化炭素でふわっと膨らんだ。

放置するとすぐおかしくなった。水分が出過ぎたらリードで吸わせなければならなかった。

毎日のお世話はめんどくさかった。かき混ぜると手がぬかくさくなった。ぬか床をかきまぜたあとは、ぬかの油で、手がしっとりした。やわらかくぐちゃぐちゃしたものを1日1回触るのは、遊びの要素もあってちょっと楽しかった。

ランニングのあとに汗をかきながらぬか漬けを食べると不足したミネラルが全身に行き渡るような気がしておいしかった。

がんばってぬか床と共に生きる日々を肯定すべく、ぬか漬けの話題をSNSに投げたりした。

 

だが。

ある日、ふと、気づいた。

こんなに手間をかけ、がんばって、やっても、そんなにおいしいもんじゃないな。

こんなに苦労してまでやるべきことなのか。これは。

めんどくさがりの私が、毎日、時間がないのに、わざわざ漬けて食べてかき混ぜて、なんでこんなことしなきゃいけないんだ。そんな気分が増してきた。

  

そもそも。私はそんなに漬物を食べないのだ。

さらに、私以外の家族は、一切、漬物を、食べない。

毎日生成される大量のぬか漬けを、私が一人で消費しなければならなかった。

汗をかく時期ならまだしも、明らかに塩分多すぎだ。水に漬けて塩抜きをして食べたが、めんどくさい。

これは好みの問題で、好きな人は好きかもしれない。

でも、正直、そんなに毎日欠かさず食べたいほど絶品かというと、私にとってはそうではなかった。

いや、おいしかったよ。

肉や魚に漬けて焼いたのも「ほほう、なるほど」っておいしかったよ。

でも、せいぜい「なるほど」どまりなのだ。

 

工夫したよ。肉と炒めたり。おにぎりの具にしたり。

でも、どうしてもなんか、無理やり感が。

もちろん、「手作りのぬか漬けで一杯」も、やった。

やったけど、そもそもあまり好きでない食べ物を酒と一緒に食べてもおいしくなるわけでもない。

そういえばぬか漬けの乳酸菌が私のハード便秘に効くかもしれないという期待もあったが、ぜんぜん、効果なかったねぇ………別に健康にもならなかった。

 

冷蔵庫に野菜が入りきらないのにスペースを占拠するぬか床を見て、私の脳裏に「捨てよう」という言葉が浮かんだ。

数週間逡巡したあげく、ある日、別れを決意した。

 

ゴミとして捨てるのは抵抗がある。

借家の庭先に穴を深く掘った。大家さんの目を気にしながら。そして、ボドボドと流し込んだ。

さようなら。

そこには少し前までに、堆肥を作るためのコンポストがあった。畑をやめたのでそれもだいぶ前に捨てた。

ぬか床を捨てた後の地面は、なにごともなかったかのように、普通に雑草が生えている。

 

ぬか床がなくなった後は、別に寂しくも物足りなくもないし、それで人生に余裕ができたわけでもない。でも、ぬか床が目に入る時にかすかに感じていた「……ああ、めんどくせえ」という重い気持ちが消えた。

今、みょうがの出回る季節になり、みょうがのぬか漬けだけはちょっとおいしかったなー、と、それだけ思い出す。

いつかどこかの居酒屋で、みょうがのぬか漬けに出会ったら、頼むかもしれない。

 

そしてこれから貧乏になっていく私が、できるだけ低コストで栄養を摂取しなければと思ったときに、またぬか床を作るのだろう。大根の皮や人参の皮を漬け、ごはんとぬか漬けだけ、の生活。それをSNSにUpしてささやかな承認欲求を満たすかもしれない。