「お金がない」と「お金をあげます」
あー。お金がない、お金がない。しょっちゅう、言っている。
みっともないですね。
口座引き落としができなかった通知がメールで来たり、残高が3桁になったり、そんなとき頭をかかえ、口をついて出てしまうのだ、「金がない」。
しかしいざ、「お金をあげます」と言われると、困惑してしまう。
数年前のことだ。ノラヤの当時の常連だった女性が、ドロップインの最中突然こう言った。
「あの、お金をあげたいんですが」
えっ、と驚くと、
「むなかたさん言ってるじゃないですか。あれがほしい、これがほしい、でもお金がないって。この間も息子さんの服を買う出費が痛かった、って。だから、わたし、むなかたさんにお金をあげようと思って」
「………いりません」
動揺した。そしてなんだかわからないけど、むかあっ、と来た。冷静と笑顔を装って、言った。
「息子の費用は別途口座に積み立てているんです。心配はいりません」
と言うとその人は、
「そうですか……お困りのようだったので。あの、気を悪くしたらすみません」
ええまったく気を悪くしましたよ、と言おうとしたらなぜかそこにいた他の常連の男性がにこやかに「いいえー!」と言ってしまったので(なぜだ!)、なにも言えなかった。
しかしこの、自分の中に沸き起こった、「お金がないみたいなのであげます」と言われることに対しての腹立ちは、なんなんだろう。理不尽だよな。欲しいっつってんだから、怒れる立場じゃないのに。
あとで思いかえすと、くれるなら貰えばよかったのに、と思う。
「息子さんの進級祝いです」とお金を持って来たら恐縮しながらも受け取っただろうから「そういう名目にしてください」と言えばよかった。
施される側、っていやなもんだなと思った。
名目のないお金を施されると、自分が立場が下になったようで、その人のしもべになったようで、気分が悪い。
そういうのがいやなら、「お金がない」と言わなければいいのに、やっぱり言ってしまう。お金がない。
お金がないと言い続けることで自分はすでに、立場が下であることを表明しているというのに。私、めんどくさいな。
すこし前のこと。義母から、私あてにずっしりと重い現金書留封筒が届いた。
いつも物を送ってくる時は、夫と私連盟で宛名を書いてくるのに、わたしに宛てるとは珍しい。
開けてみたら札束、と、長い手紙。
驚いて読む。
「日本での女性の地位は相変わらず厳しい。働いているとはいえ収入も少ないであろう。息子もあなたを働かせて迷惑をかけている。仕事の収入の一部をためてきたお金であるから自身のために使って欲しい。そしてどうかこれからも家族で仲良く暮らしてほしい」といった内容だった。
この時も、かなり困惑した。
特に「女性であるから収入も少ないであろう」と「迷惑」という部分。
たしかに私は子供を持ったことで仕事にかける時間も少なくなり、まっとうな収入を得る機会もかなり失ったと思う。しかし現在、私の収入が非常に少ないのは、いろいろな経緯を経て、やりたくない仕事をしないからである。IT系の仕事はやりたくないからやらなくなったし、ノラヤのような赤字一辺倒な事業も自分が勝手に選んだ道である。だからこそ別途コンビニのバイトなどの仕事で収入を別に得ているのだ。コンビニバイトだって大変だけど、そんなにいやなわけでない。
私にとって、なにかしら働くのは当たり前なのに、「迷惑」というのは、まったく違うのだ。それにお金をもらったから家族仲良くしろというのも……
もやもやした。けれど、すでにお金が手元にある。これはありがたくもらうことにして、一部は生活費や自分のランニング関係のために使ったけど、なるべく使わずに義実家関連イベントが発生したときのためにとっておこうと別口座に保存してある。
お金を労せず貰うって、実はこっちの気分の処理がたいへんだ。
なので、もし私にお金をくれるなら
(1)とにかく有無を言わせないように現金をつきつける、送りつける(いるかどうかきかない)
(2)「ノラヤオープン◯年◯日記念のお祝いです!おめでとうございます!」などと、なんでもいいから名目をつける。
という方向でお願いします。
4月はやばい。大きな引き落としが2つ重なる。バイトの勤務は増やした。それでなんとか乗り切れるだろうか。
ああ、お金がない。