仙台広瀬川ワイルド系ワーキングマザー社長

ビールと温泉と面白いものが好きな48歳、高校生男子の母。

腕時計

二ヶ月ほど前、腕時計が壊れた。

秒針が取れてしまったのだ。

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秒針が取れただけなら長針と短針で時刻を見るのには支障がない。と思って使い続けていたら、大問題が起きた。

外れた秒針が長針や短針の間にはさまり、気づかぬうちに止まってしまうのだ。降ったり叩いたりして秒針を振り落とせば再び動き出す。

先日、東北風土マラソンに参加したとき、まさにレース中に止まってしまった。ゴールの30分ほど前で、全然気付かなかった。

これはまずい。Swatchの分解整備は無理らしい。だから安いんだ。新しいまともな腕時計が欲しくなった。


ちなみに前に欲しいと思ったこれは、いまはそんなに欲しくない。 

monyakata.hatenadiary.jp

 

しかし、もう50代も近いんだし、安物でなく、丈夫でちゃんとしたのを買おう。修理できるやつね。

秒針の取れた腕時計は、置き時計にすれば秒針が動いて挟まることもないだろう。

台所の棚に置いて調理中見る用途に使おうと思った。

 

さて、なに買おう。

買い物においては、買おうと思いついていろんなものを物色して比較検討しているときが一番楽しいと思う。

カシオのサイトで、G-SHOCKなどを眺めた。いいなぁ、かっこいいなぁ。こういう腕時計つけたいなぁ。やっぱ丈夫でないとね、秒針とれたら嫌だし。雨の中バイクに乗りながら使うから、防水もちゃんとしていないと。でも19000円以上するのか。うわー、高いなぁ。

Baby-Gもいいなぁ。クールなデザインもある。

アナログで、文字盤に数字がなくって、秒針があって、夜光であればいい。

でも、ネットじゃなくて実物見て買おう。身に付けるものだし。お店に行ったらもっと安い型落ちがあるかもしれないし。そうだヨドバシのサイトも見よう。

 

ヨドバシのサイトを見に行ったわたしは、ショックを受けることになる。

「このG-SHOCKいいな」と思って、60%くらい買う気になったモデルがあった。まあ一応レビューみるわな。そうしたら。
「中学生の息子に入学祝いに買いました」
「子供の合格祝いに。喜んでもらってよかったです」
「高校生の息子用です」

え、なに?これ、子供用なの?19000円以上するG-SHOCKをみんなほいほい子供に買ってるの?

多くの人たちが「子供に」と買っている腕時計を、もうすぐ50になろうというおばさんが、買おうかと思っているなんて…。

 

なんだか急に冷めて、わたしはふたたび、秒針の取れたSwatchを身につけた。

そんな私を見て、息子が言った。

「俺も腕時計欲しいんだよね」

息子はスマホで時間を見るが、手帳型カバーを愛用しているので、とっさの時手間取るそうだ。そりゃそうだ。不便だよね。

「そのうちヨドバシ一緒に行って買おうよ」と言うと、

「俺は『てれびくん』付録の仮面ライダーのウォッチでいいよ…でもさ、この間、超かっこいい腕時計見つけた」

「えっ、どれどれ」

見せてもらったサイトは、日本の時計メーカーではなく、海外製。超個性的なデザインの腕時計で、絶対誰も持っていない。G-SHOCKみたいに多機能ではなくシンプルに時計の機能しかないが、余計なものを一切削いだかっこよさ。しばらくそのバリエーションに見入って、息子と「すげー」「かっこいいー!」と盛り上がった。

値段はもちろん、G-SHOCKの私が欲しかったやつよりずっと高い。

まぁ、買わないでしょ。

 

すると、息子が同級生のことを話題に出した。

「◯◯は、2桁万円の腕時計しているよ」

「ほえっ!?ふたけたまんえん?ふたけたまんえん…って、じゅ」

「そう」

「高校生で、ふたけたまんえん……」

 

ほええええええ。

いや、わたしも知ってるよ。高い腕時計は数百万とか数千万とかすることを。それに比べたら数十万なんてまだふつうだ。

◯◯くんは社長のお子さんだ。毎年海外旅行に行くし、親から買ってもらったマンションもあるらしい。

 

腕時計の会話はその場で終わった。

数日後、外出中、またわたしの腕時計の秒針が引っかかった。

「あーっ、もう!」

時計をかつかつ指先で叩き、振り、回し、ようやく秒針が外れた。ふう。

だめだ。やっぱ不便だ。買わなきゃだめだ!

 

腕時計って、やっぱり生活必需品だよなぁ。生活インフラだよなぁ。

そうだ。私は、インフラには金を惜しまないというのがスタンスではなかったか。

インフラをケチって微妙に不便な生活をすると、表向きは変わらなくても、蓄積したデメリットが確実に生活を蝕んでいくのだ。

 

帰宅して息子に言った。

「その欲しい腕時計、買おうよ」

最初は「えーいいよ」と遠慮していた息子だが、

「じゃ、かあちゃんの気が変わらないうち、今、買おう」と、URLを教えてくれた。

ぽちり。

19000円よりずっと高い金額が瞬時にカード決算され、超かっこいい腕時計は息子のものになった。

 

息子の腕に収まったそれを見ると違和感と後悔がじわじわと押し寄せてきた。

IT企業勤務エンジニアの、腕組みドヤ顔写真ならこれは似合うかもしれない。

自己啓発セミナー講師ならつけてるかもしれない。

ジャスコ(イオンじゃない)のトレーナーを着た高校生がこれを?

わたし、はやまったんじゃないだろうか。

息子のやつ、うっかり無くすんじゃないか。

ぶつけて壊すんじゃないだろうか。

通りすがりの人に騙されて、盗まれるんじゃないだろうか。

「飽きた。俺やっぱり腕時計むりだわ」と言って、部屋に埋もれさせるのではないだろうか。

 

息子もなんだか緊張した面持ちだ。仮面ライダービルドの、デラックスビルドドライバーを買って装着した時はこの150倍くらい嬉しい顔をしていた。

ああ…腕時計より、もっと別な金の使い方があったんじゃないか?…ステーキ食うとか高級な温泉泊まるとか…わたしも混乱してきた。違う違う!贅沢品ではない、インフラだ、腕時計は。でも、こんなに高くなくてもよかったんじゃ…

ものすごくたくさんの思いが押し寄せた。いろいろ言いたくなった。でも、こらえて、これだけは言った。

「大事に、しろよ」

いつか息子の腕にその時計がしっくり来る日を信じて、待つしかない。

 

そして私は、相変わらず秒針の外れていつ止まるかわからない腕時計をしている。

買いますよ、買いますとも。困るから。

でも、私には、新品のG-SHOCKは似合わないだろうな、おそらく。

修理ができて、ほどほどに高いものを買うとするか。